フライス加工における機械的負荷の制御
これは、金属切削工具に影響する負荷の性質、影響および制御を検証していく、記事シリーズの第二弾です。第一弾では、基礎概念に注目し、旋削加工における工具ジオメトリ、送り量および機械的負荷の関係性について述べました。この記事は、フライス加工において、カッタの位置決めや工具パスが機械的負荷に及ぼす影響を分析しています。旋削加工は、単刃の工具に安定した機械的負荷がかかりますが、フライス加工は、複数の切れ刃に、急速で断続的に変化する負荷がかかります。このように、フライス加工で成功するには、フライス加工に特化した多くの選択と熟考が必要です。はじめに
これは、金属切削工具に影響する負荷の性質、影響および制御を検証していく、記事シリーズの第二弾です。第一弾では、基礎概念に注目し、旋削加工における工具ジオメトリ、送り量および機械的負荷の関係性について述べました。この記事は、フライス加工において、カッタの位置決めや工具パスが機械的負荷に及ぼす影響を分析しています。旋削加工は、単刃の工具に安定した機械的負荷がかかりますが、フライス加工は、複数の切れ刃に、急速で断続的に変化する負荷がかかります。このように、フライス加工で成功するには、フライス加工に特化した多くの選択と熟考が必要です。
常に変化する負荷
フライス加工を計画するときの、まず第一の基本ステップとして、加工部品に求められる機能をもって設計製造された、フライスカッタおよび切削チップまたは切れ刃を選びます。工具メーカは、フェースミル、エンドミル、サイドカッタおよびその他カッタを、どんな加工部品の特徴にも応えられるよう設計生産された粗加工用または仕上げ加工用のジオメトリで、提供しています。
どんなカッタを使用しても、加工中、その切れ刃は繰り返し被削材を出たり入ったりします。フライスカッタの刃にかかる負荷は、入るときにゼロから始まり、切削時にピーク値を示し、その後出るときにゼロに戻ります。その目標は、このフライス加工における断続的な負荷を緩和して、それにより最高の工具寿命、生産性および加工信頼性を実現することです。
ワークのアプローチ
カッターと切れ刃がワークに入る方法は、フライス加工時の機械的負荷に大きく影響します。通常の「アップ」カットでは、カッタはワーク送り方向とは逆に回転しますが、一方「ダウン」カットはこの送りと同じ方向に動きます。
結果、アップカットでは切れ刃がワークに入るときに切り屑厚さが最小になり、出るときに切り屑厚さが最大になります。反対に、ダウンカットの切れ刃がワークに入るときは切り屑厚さが最大になり、出るときに切り屑厚さがゼロに減少します。いずれの場合でも、先が細い切り屑を生成します。
ほとんどの場合、メーカはダウンカットを推奨します。なぜなら、アップカットだと浅くワークに入るため摩擦が発生しますが、ダウンカットだとそれを最小限に抑えることができるからです。ダウンカットは、ワークに最大の切込み深さで入ることが出来るので、切り屑への熱移動が適切に行われ、ワークも工具も保護できます。カッタ後方へ切り屑排出することにより、再加工のリスクも減ります。
しかしながら、いくつかのケースでは、アップカットが適してます。ダウンカットのフェースミル加工では、下方向の力が生成されるので、旧型の手動機械でバックラッシュを引き起こす可能性があります。カッタがワークを引き上げるアップカットは、安定性の低い機械での加工、特に重切削に適します。アップカットは、粗い表面や薄肉材を加工する際も効果的で、ワークに段階的に入ることで、脆弱性のあるとても硬い切削工具材を、衝撃の損傷から守ります。一方で、アップカットの特徴である、浅く入ることで生成される過剰な摩擦と熱は、工具に悪い影響を与える可能性があります。工具の端に不均一な力がかかると、切れ刃の欠けと引っ張り応力の増大の原因となります。カッタ前方に切り屑が落ちるため、再加工の必要が生じ、表面仕上げにも影響します。
ダウンカットでは、最大の切込み深さで入ることで、工具に大きな機械的負荷がかかりますが、これはほとんどの切削工具材にとって問題にはなりません。超硬、セラミックおよび高速度鋼など、現代の工具材は粉末ベースで製造され、非常に高度な圧縮強度があります。
カッタの位置決めと工具の入り口戦略を語る場合、機械技術者は、片面あるいはワーク中心線の外にカッタを配置するのが常に好ましい、ということを心に留めておくべきです。中央に位置決めすると、アップカットとダウンカットの力が混ざり、不安定な加工と振動の原因になります。
出口戦略
入る方法と同様に、ワークから切れ刃が出る方法も重要です。経験則では、カッタが出るとき位置決めと切削工具の切れ刃寿命には、明らかに関係があります。あまりにも突然または不均一にカッタが出る場合、切れ刃は欠けるか破損します。しかしながら、工具が出るときに注意を払えば、最大 10 倍以上の工具寿命を得ることが出来ます。出る際の角度は、そのフライスカッタ R と切れ刃の出口点の角度によって決められる、重要な値です。出る際の角度はネガ(カッタ R 上)かポジ(カッタ R 前)かのいずれかです。工具の端の欠損は、出る際の角度がマイナス約 30 度からプラス約 30 度(図 3/3 イメージ参照)の間の場合によく見受けられます。この角度を用いるワークの幅は、使用しているフライスカッタ径の大体半分です。
このフライスカッタの切れ刃にかかる負荷の、断続的な性質を改善するもう一つの方法は、ワークにあたる切れ刃数を常に最大にすることです。小径およびクロスピッチのカッタで、径方向の切込み深さを大きくすると、ワークにあたる刃数が増え、さらに切削抵抗が均等に分散されます。
切り屑厚さ
フライス加工で生成した切り屑厚さは、切削抵抗、切削温度、工具寿命および切り屑形成と排出に大きく影響を与えます。切り屑が厚すぎると大きい負荷が発生し、切れ刃が欠けたり破損したりします。切り屑が薄すぎると、切削は切れ刃の小さい部分で行うため、摩擦が起こって熱を発し、結果として工具摩耗が早まります。
切り屑厚さは、有効切れ刃に対して垂直な状態で計測されます。先に触れたように、フライス加工時の切り屑は、切れ刃がワークを通るとともに、厚さが頻繁に変化します。プログラミング用に、工具メーカーは、「平均切り屑厚さ」という概念を利用しています。この平均厚さとは、切り屑の最も厚い部分と薄い部分の平均を数値化しています。工具メーカは、工具ジオメトリごとに平均切り屑厚さのデータを公開していますので、これを適用し維持すれば、最大の工具寿命と生産性が実現します。
機械技術者は、このデータを使って、推奨平均切り屑厚さを維持できるカッタ送り量を決めることができます。カッタの径方向エンゲージメント、カッタ径、カッタの位置決めおよび切れ刃の切れ刃角は、正しい送り量を決める要素となります。径方向エンゲージメントは、径方向切込み深さ (ae) とフライスカッタの径 (Dc) の比率により決められます。カッタの径方向エンゲージメントが大きければ、希望切り屑厚さを生成するのに必要な送り量は低くなります。同様に、低いカッタエンゲージメントならば、同じ切り屑厚さを得るのに必要な送り量は高くなります。切れ刃の切れ刃角も、送り要件に影響します。切れ刃角 90 度で切り屑厚さは最大になりますから、より浅い角度の場合は、同じ切り屑厚さを得るのに必要な送り量は高くなります。
シャープな切れ刃は切削抵抗を低減しますが、ホーニングおよび面取りされた切れ刃よりも脆弱です。切れ刃にかかる機械的負荷は欠けや破損を防ぐため制限されなければいけません。ですから、より小さい平均切り屑厚さがシャープな切れ刃には推奨されます。この場合、使用される切れ刃ジオメトリは、正しい平均切り屑厚さにより決定されます。逆の場合も同様です。
機械技術者は、フライス加工の基礎である、この論理と方式を利用して、フライス工具にかかる断続的な負荷を制御できます。しかしながら、部品要件はより複雑になっています - 簡単な角面のフライス加工のレベルであっても - 推奨平均切り屑厚さを維持するために手作業で送り量を変えることは非常に重要です。このような場合やさらに、5 軸複合加工機、CAM ソフトウェアメーカおよび先端の CNC 設備等は、Dynamic Milling(ダイナミック加工)、Volumill、 Adaptive Clearing のような一定のツールエンゲージメント/ツールパスプログラムと同様にトロコイド加工やコーナピーリング加工などの技術を開発しています。これらのソフトウェアや加工制御の進歩は、切削工具の断続的なフライス加工の影響を制御する、工具の入り口、出口および切り屑厚さの管理ような、基本概念のハイテク革命の証です。
おわりに
製造者は、フライス加工機と工具を使って 100 年以上もの間、大量に最高の品質で数えきれない部品を生産してきました。その間、基本的なフライス加工は変わっていません、つまり、ワークの表面でカッタを回転させるという使い方です。そのプロセスの断続的な切削の本質は同様に変わっていないのです。
フライス加工機およびフライス工具は、信じられないほど進化しています。しかしながら、多くはこの技術進歩を最大限に活用できずにいます。フライス加工におけるワークと工具の独自の相互作用を理解し、断続的な負荷を和らげることで、このプロセスが、なかなか実現できない、最高の生産性、品質および工具寿命という 3 つの目標の達成を実現できるのです。